野生動物による被害、いわゆる『害獣』が大きな社会問題になっている昨今の日本列島。
『被害に遭わないためにはどうすればいいの?』という疑問の声を耳にしますが、とてもひとことでは言い表せません。なぜなら、野生動物たちの動向は日本全国どこも同じではなく、各地域の気温や地形、土地環境、人間の暮らし方等によって、その生態や被害の状況が変わってくるからです。
本記事では、高知県に生息する野生動物(害獣)の種類や特徴をご紹介します。また、害獣被害に遭わないための対策や、もしも害獣に出会ってしまった場合の対処方法、さらには害獣の駆除についても解説しますので、高知にお住いの方や高知を訪れる際にはぜひ参考にしてください。
高知県とはどんなところ?
四国地方の南東部に位置する高知県。
まずは、高知県の基本情報と、害獣と関わりが深い地形や土地環境について紹介します。
高知の基本情報
高知県の県庁所在地は、県の中心部に位置する高知市です。
面積は約7,104平方キロメートルで、東京23区の面積の約11倍に相当します。これは、四国四県の中でもっとも広く、四国全体の面積の約37%にあたります。
広い面積に対して人口は約70万人と少なめで、人口密度は47都道府県のうち、北海道に続いて2番目に低い県となっていることからも、自然の豊富さがうかがえます。
たとえば、日本最後の清流として知られる四万十川や土佐清水のリアス式海岸、豪快な太平洋など、美しい自然の風景は多くの人々を惹きつける高知県の観光資源となっています。また、自然の中で楽しむサーフィンやカヌー、登山ほかアウトドアでのアクティビティも盛んです。
このほか歴史と伝統文化に彩られた観光名所、よさこい祭りなどの盛り上がる行事、カツオのたたきに代表される豊かな食文化など見どころが多い高知県。年間を通じて多くの観光客が訪れています。
高知の気候と土地環境
高知県の面積のうち約83%が山地で、県北部には四国山地が広がっています。県の中央部には四万十川や物部川、吉野川など多くの清流があります。海岸線は変化に富み、リアス式海岸や砂浜、岬が点在しています。
高知県は太平洋沿岸に位置し、気候は温暖な太平洋側気候で年間降水量が多いことが特徴です。冬でも比較的暖かく、ヤシの木や亜熱帯植物が見られることから「南国土佐」と呼ばれます。「土佐(とさ)」とは、高知県の旧国名です。
とは言え、山間部では冬に雪が降ることもあります。
高知に生息する野生動物
多様な自然環境を誇る高知県には、多くの野生動物が生息しています。
哺乳類では、ニホンジカ、イノシシ、アナグマ、たぬき、ニホンザルなど、鳥類では天然記念物のヤイロチョウ、猛禽類のトビ、サシバ、オオタカなどです。沿岸部では渡り鳥も多く観察されています。
四万十川にはアユやウナギがたくさんおり、川漁が盛んに行われています。また、四国山地では、希少種のチョウやセミ、美しい夜景を見せるゲンジボタルやヘイケボタルが生息しています。
高知県は、多様な地形と自然環境により、国内でも独自の生態系を形成しており、この自然を守るためにさまざまな取り組みが行われています。その一方で、野生動物に悩まされている人々、野生動物に被害を被っている人がいるのもまた現実です。
高知県の野生鳥獣による被害の実態
農業や林業、水産業など人間の暮らしの営みに害を与える野生鳥獣のことを私達は害獣と定義づけています。高知県では、どのくらいの害獣被害があり、どのような害獣に悩まされているのでしょうか。
農林水産業等における害獣被害額
高知県の総合企画部 中山間地域対策課が把握している被害額は下記の通りです。
農業 | 林業 | 水産業 | 合計(その他含む) | |
2016年(平成27年) | 2億2,057万5,000円 | 4,473万1,000円 | 573万8,000円 | 2億7,100万円 |
2018年(平成29年) | 1億5,532万4,000円 | 1,819万7,000円 | 553万円 | 1億8,000万円 |
2019年(令和元年) | 1億763万1,000円 | 944万9,000円 | 620万9,000円 | 1億2,300万円 |
2021年(令和3年) | 9,632万9,000円 | 889万6,000円 | 600万3,000円 | 1億1,100万円 |
2023年(令和5年) | 1億1,624万8,000円 | 1,096万9,000円 | 762万円 | 1億3,500万円 |
※合計被害額にはその他の被害を含みます。参考:高知県ホームページ
近年は減少傾向にあるものの、依然として大きな被害額となっています。
これは高知県が把握している数字に過ぎず、氷山の一角だと言われており、実際には届け出ていない害獣被害もあると思われます。こうした被害金額とは別に、産業従事者の労働意欲を削ぐ、精神的な被害も大きいと言えます。
高知の産業を脅かしている害獣たちとは?
では、いったいどういった野生動物が高知の産業にダメージを与えているのでしょうか。
イノシシ
イノシシは高知県のみならず四国地方全体で大きな問題となっている害獣です。いや、日本各地で害獣として扱われている厄介者です。
イノシシは雑食性なのでまず、稲作や野菜、果物など農作物を荒らして食べます。また、地面を掘ってサツマイモやタケノコなどの根菜も食べることもあります。せっかく作った農作物や土壌が台無しです。
さらに、人里に現れて食べ物をあさり、出くわした人間に『猪突猛進』して怪我を負わすこともあるので注意が必要です。
ニホンジカ
ニホンジカは山林で多く見られます。シカは草や木の葉、若芽などを食べ、農地にも侵入して作物を食害します。
広大な森林面積を持つ高知県では、森林再生に積極的に取り組んでおり、森林の健全な成長を促すために、定期的な間伐や植栽、保護管理を行っています。しかし、シカが若木を食べることで森林再生が難しくなります。特に広葉樹林や針葉樹に悪影響を与えます。
また、ニホンジカが植物を食べることによって、植物群生の減少を招き、他の動植物の生育環境にも悪影響を及ぼすため、生態系への影響も懸念されています。
ニホンザル
日本各地の山間部や森林に広く生息しているニホンザル。山林の多い高知県では、よく見かけます。ニホンザルもイノシシと同じく雑食性なので、何でも食べます。中でも果物や穀物を好むため、農業や果樹栽培に大きな被害を与えています。
農作物を荒らすだけでなく、農村部におりてきて民家に近づくこともあります。食べ物がないかとゴミを漁ったり、モノを壊したり、人間に出くわして危害を加えたりして人々の暮らしを脅かしています。
さらに、ニホンザルは山間部に生息しているため、森林再生に支障をきたし、生態系への影響も懸念されています。
カラス
適応力が高く賢いため、都市部や農村、森林地帯などさまざまな場所で生きていけるカラス。全国各地のあらゆる地域で人間社会にダメージを与えており、高知県も例外ではありません。
高知では、みかんや柿などの果物が多く栽培されていますが、これらをカラスが食べることで大きな損害を被ります。稲穂も食べられてしまいます。農作物の種子や苗を食べることもあり、農家は大迷惑です。
カラスはゴミの中の残飯を漁ってゴミを散らかすことでも知られています。高知県もしかり。カラス被害による衛生問題や景観の悪化問題は深刻です。
また、カラスは他の鳥のひなや小鳥、卵を捕食することがあるので、生態系への影響も問題です。
野生鳥獣による被害が増えた理由は?
高知県総合企画部中山間地域対策課によれば、下記(高知県ホームページより引用)の要因が考えられています。
- 植林地における間伐等の手入れ不足による鳥獣の食物及び生息地の減少。
- 狩猟者人口の減少と高齢化により狩猟で捕獲される鳥獣の減少。
- 中山間地域の耕作放棄された田畑や水田がイノシシのえさ場やぬた場になることによる個体数の増加。
- 中山間地域における高齢化・過疎化に伴う人間社会の生産活動等の活力低下。
- 暖冬傾向・地球温暖化により野生鳥獣の繁殖に好条件となることによる個体数増加。
高知県における効果的な害獣対策とは?
さまざまな野生動物が生息する高知県において、どうすれば害獣の被害に遭わないで済むのでしょうか。ここでは害獣対策についてご紹介します。
野生鳥獣の被害に遭わないための対策
害獣の被害に遭ってから困る前に、あるいは被害を最小限に抑えるために、まずは予防対策が大切です。まず、野生動物の餌となるもの、たとえば農作物を庭先に放置する、といったことはやめましょう。
害獣が農地や住宅地に侵入することを防ぐために広く用いられているのが電気柵やネットです。適切に柵やネットを設置しておけば、動物の侵入を防ぎ、農作物や森林の保護につながります。
また、大抵の野生動物は、少なからず人間に対する警戒心がありますから、定期的な巡回や監視をすれば、防止措置となります。見回っていれば、例えばカラスやサルの巣作りを早期に発見し、撤去することも可能です。
害獣が近づかないようにする忌避方法
音や匂い、視覚的な障害を使って害獣が近づかないようにする、近づいても追い払う方法があります。
たとえば、人の気配に敏感な鳥や小動物に対しては音響装置を使って遠ざけることができます。反射板や風車、旗などで視覚的に刺激して農地などへの侵入を防ぐ方法もあります。
もしも被害に遭ってしまった場合の対処法
それでも被害に遭ってしまったら…憎き害獣は退治したいと思うものです。実際に、捕獲や駆除によって被害の軽減が見込めます。しかし、日本では、野生動物に関する法律や規制が厳しく定められており、個人が勝手に野生動物を捕獲したり駆除したりすることは基本的に法律違反となります。
例えば、「動物愛護法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)」では、野生動物を含む動物の虐待や捕獲、駆除(殺害)は禁じられています。また、「鳥獣保護管理法(正式名称:鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)」では、野生動物を許可なく捕獲・殺傷することはできないという基本原則があります。
例外があり、ネズミは対象外で、一般家庭や住宅でのネズミの駆除は個人が行っても構いません。ただし、農作物を守るためや公共の場でネズミの駆除を行う場合は許可が必要な場合があるのでご注意ください。
駆除したいと思ったら自治体や専門業者に相談を!
害獣被害が発生して困っていたとしても、個人が勝手に野生動物を保護したり駆除したりすれば法律違反というリスクを追うことになるのでやめましょう。無許可で野生鳥獣を捕獲した場合、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられます。種によってはもっと厳しい罰則が適用されることもあります。
許可を得て自分で捕獲・駆除することができる害獣もいますので、まずは地域の自治体に相談してみることです。
しかし、許可申請の手続き等は案外複雑なので、害獣駆除の専門業者に依頼するのも一つの方法です。専門業者であれば、複雑な許可申請の手続きも手慣れたものです。
自分で許可を取ったとしても、自力での駆除が難しい場合は専門家に依頼することになります。費用との兼ね合いもありますが、『急がば回れ』というように、下手に自分で解決を目指すよりも、その道にプロに委ねたほうが近道になる可能性が高いと言えます。
まとめ
多様な美しい自然が魅力の高知県においても例外ではなく、害獣に悩まされている実態があります。被害をゼロにすることは難しいかもしれませんが、野生動物の習慣や生活を知り、対策を練り、被害を最小限に抑えることは可能です。
忘れてはならないことは、野生動物は必ずしも『敵』はなく、自然環境の一部と捉え、共生を目指す視点が重要だということです。「害があるから排除しよう」ではなく、共存を模索することが高知県の持続可能な発展にもつながります。
野生動物が人間の生活圏に入ってこない仕組みをつくりながら、個体数や生息地を適切に管理し、高知県民と自然が調和する社会を目指すことが望まれます。
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