猫が急に食べなくなり、短い時間に何度も吐いたとき、熱がなければ様子を見てよいのでしょうか。
答えは「見てはいけない」です。
猫のSFTSでは発熱が確認されない例も報告されています。
そのため、体温だけでこの病気を除外することはできません。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニが運ぶウイルスによる感染症で、猫も人もかかります。
発症した猫との接触によって人が感染した事例も報告されています。
そのため、急な食欲低下や繰り返す嘔吐に気づいたら、「動物病院へ電話する」「家族は血液・唾液・嘔吐物に素手で触れない」の2つを同時に始めます。
1. 猫のSFTSの症状と受診を急ぐ目安

猫のSFTSでは、初期に食欲低下や元気消失という、多くの病気に共通する変化がみられることがあります。
症状の組み合わせで見分けようとせず、「どれだけ急に、どれだけ食べられなくなったか」を受診の目安にします。
人の症状と受診の目安は、別の記事にまとめています。
関連記事:人のSFTSの症状と受診の目安
1−1. 食欲低下・元気消失・発熱・黄疸・嘔吐などの主な症状
家庭で気づける猫のSFTSの症状として報告されているものは次のとおりです(みられる頻度は症状によって異なります)。
- 食欲低下(まったく食べない状態を含む)
- 元気消失(じっとして動かない、呼んでも反応が鈍い)
- 発熱。ただし発熱が確認されない例もあります
- 黄疸(おうだん:白目や歯ぐき、耳の内側が黄色くなる状態)
- 嘔吐(下痢を伴う例もありますが、嘔吐より少ないとされます)
- 重症例では、けいれんなどの神経症状や出血傾向
国立健康危機管理研究機構(JIHS)「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について」2026年3月9日版の症例集計表では、猫の元気・食欲低下は全例にみられました。
一方、39℃以上の発熱は78.2%でした。
表の割合をそのまま猫全体の発症頻度とみなすことはできません。
しかし、発熱が確認されない症例が報告されている以上、体温だけでSFTSを否定することはできません。
2019年7月のIASR(病原微生物検出情報)に掲載された猫の症例報告でも、症状は上のリストと重なります。
ただし、いずれもほかの病気で起こる症状です。
家庭で診断を付けようとせず、急な変化をそのまま動物病院へ伝えます。
参考:猫のSFTS症例の症状集計(JIHS「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について」2026年3月9日版)
参考:猫のSFTSの症状に関する報告(IASR 2019年7月号)
参考:相模原市「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
1−2. 食べられない・繰り返し吐く・急に悪化したらすぐ相談する
急に食べなくなった、または繰り返し吐くときは、好き嫌いや毛玉で片付けず、その時点で動物病院に電話します。
JIHSの同資料によれば、猫のSFTSにはウイルスを直接抑える治療法が確立しておらず、対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。
同資料では、急に悪化して死亡する例も報告されています。
数日の様子見で失う時間が大きい病気のため、受診後に悪化した場合も次の予約日を待たずに再度連絡します。
千葉県が2026年4月23日に公表した県内初の猫の症例では、屋内外で飼育されていた1歳10か月の猫が4月13日に食欲低下で受診しました。
翌14日にまったく食べなくなって嘔吐も出たため再受診し、17日に遺伝子検査で陽性となりました。
4月17日時点では回復傾向で飼い主宅にて隔離飼育されており、発表本文には飼い主や動物病院関係者への感染に関する記載はありません。
初回受診の翌日に再受診したという経過そのものが、「悪化したら間を置かず再相談する」行動の具体例になります。
再相談のとき獣医師が経過をつかみやすいよう、次の3点を紙やスマートフォンに記録しておきます。
- 異変に気づいた日(発症日)
- 1日の食事量(普段の何割か)と水を飲んでいるか
- 嘔吐・下痢の回数と時刻
なお、東日本でも茨城県が県内の猫の感染例を公表しています(4−1参照)。
そのため、「西日本の病気だから」という地域名は様子見の根拠になりません。
参考:食欲低下から再受診につながった猫の公表例(千葉県 2026年4月23日報道発表)
参考:東日本での猫の感染状況調査(茨城県「動物の感染症」)
2. 猫のSFTSの感染経路と動物病院への受診準備

猫のSFTSの主な感染経路はマダニの吸血ですが、感染源を特定できない例もあります。
受診準備では感染経路を自分で確定しようとせず、獣医師が判断に使える情報を電話の段階で渡すことが要点です。
本章は、東京都獣医師会がWebサイトで公開している「SFTS簡易マニュアル改訂版(案)」(2026年3月18日付)の記載に基づきます。
案の段階の資料であり、各病院の対応や費用を一律に示すものではありません。
その後に改訂された版が出ている可能性もあるため、受診時点の最新版と動物病院の説明を優先してください。
参考:SFTSが疑われる猫の診療の流れ(東京都獣医師会「SFTS簡易マニュアル改訂版(案)」2026年3月18日付)
2−1. マダニを介した感染と感染源が不明な場合を区別する
飼い主が押さえておきたい感染の方向は次の3つです。
- ウイルスを持つマダニ → 猫(吸血)
- ウイルスを持つマダニ → 人(庭仕事や草むらで刺される)
- 発症した猫 → 人(咬傷、血液・唾液・嘔吐物などへの接触)
厚生労働省のQ&A(第8版、2025年11月21日作成)は、マダニに刺される経路に加えて、感染した猫や犬との接触で感染したと考えられる人の症例を示しています。
一方、猫の体にマダニが見つからなくても、家庭で感染を否定することはできません。
マダニ予防薬を使っていた猫の発症報告もあります(4−2参照)。
そのため、予防薬の使用歴は「安心材料」ではなく、外出歴や接触状況とあわせて「獣医師に伝える情報」として扱います。
参考:SFTSの感染経路と動物との関係(厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」第8版)
参考:マダニ予防をしていた猫の発症報告(IASR 2019年7月号)
2−2. 受診前に電話で伝える4つの項目
SFTSが疑われる猫は、院内の他の動物や職員への感染対策が必要になります。
そのため、連れて行く前に必ず電話し、次の4つを伝えます。
- 症状の経過:いつから、何を、どのくらい(1−2で記録した内容)
- 外出歴:外に出る猫か、脱走したことがあるか、その日付
- マダニとの接触:体に付いていた、室内に落ちていた、同居犬に付いていた
- 予防薬の使用:製品名と最後に使った日
病院側にも確認したいことがあります。
東京都獣医師会のマニュアル(案)に収載された診療同意書の例には、感染対策の設備などが足りない場合に診療を断り、転院を案内する可能性が記されています。
防護具・滅菌・消毒などの追加費用についての説明もあります。
どのような場合に発生するか(検査結果との関係を含む)は、同意書の記載や病院の説明で確認が必要です。
あくまで資料に示された例で、実際の対応や金額は病院ごとに異なります。
そのため、電話の段階で次の4点を聞いておくと当日の混乱を減らせます。
- SFTS疑いの猫を受け入れてもらえるか
- 断られた場合に紹介してもらえる転院先
- 搬送方法(ケージの覆い方、車内での注意)
- 追加費用の有無と目安
参考:転院の可能性と感染対策の追加費用に関する説明(東京都獣医師会「SFTS簡易マニュアル改訂版(案)」2026年3月18日付)
2−3. 動物病院では診察・血液検査・遺伝子検査などで判断する
猫のSFTSの診断は、診察・血液検査・遺伝子検査を組み合わせて獣医師が行います。
体温や黄疸の有無を診る診察に加え、血液検査で白血球数や血小板数の減少を確認します。
SFTSを疑えば、検査機関へ遺伝子検査(PCR検査:ウイルスの遺伝子を増やして検出する方法)を依頼する流れです。
東京都獣医師会は、同じく白血球が減る猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症とも呼ばれるウイルス病)を見分けるために、ワクチン接種歴の確認が必要だと説明しています。
また、SFTSには特徴的な症状がないため、検査による診断が重要だとしています。
検査の選択は獣医師に委ね、飼い主は結果を待つ間の世話と隔離の方法をその場で聞いておきます。
参考:東京都獣医師会「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」
3. 猫から人へのSFTS感染を防ぐ世話と接触後の対応

猫がSFTSと診断されても、家族が必ず感染するわけではありません。
千葉県の例の発表本文にも、飼い主らへの感染は記載されていません。
一方、JIHSの2026年版資料には、SFTS発症動物への対応から2週間前後に発熱などのカゼ様症状を呈し、SFTSウイルス感染が確認された事例が報告されていると記載されています。
防護なしの接触を続ければ感染の可能性は現実にあるため、治療と隔離を続けながら家族を守る手順を場面ごとに整理します。
3−1. 世話・搬送時の防護と手洗い、汚染物の扱い
入院か自宅管理か、隔離をいつ解除するかは、猫の状態と病院の設備を踏まえて獣医師が判断します。
相模原市の案内では、自宅ではケージ内に隔離して世話をする人を限定するよう示されています。
さらに、マスクと手袋を着けて素手では触らず、周囲を塩素系消毒薬で消毒するようにとも記されています。
JIHSの資料は獣医療向けに、手袋やマスクなどの防護具の使用と、体液の飛散への注意を示しています。
家庭で嘔吐物や血液が飛び散るおそれのある処理をするときは、手袋とマスクだけで始めず、処理の前に獣医師へ連絡します。
そのうえで、目や衣服の防護、清掃の手順、使った布の保管と処分方法を確認します。
| 場面 | 避ける接触 | 基本の対策 | 病院に確認する事項 |
|---|---|---|---|
| 搬送・通院 | 素手での抱き上げ、顔を近づける | 使い捨て手袋、マスク、長袖 | ケージの覆い方と通気、覆いの洗い方 |
| 食事・投薬 | 口元に指を入れる、口移し | 使い捨て手袋、マスク | 投薬が難しいときの代替方法 |
| トイレ掃除 | 便・尿への素手接触 | 使い捨て手袋、マスク、袋を密閉 | トイレ砂の処分方法、消毒薬の濃度と範囲 |
| 嘔吐物・血液の処理 | 拭き取り時の飛び散り、顔を近づける | 処理前に獣医師へ連絡。手袋・マスクに加え、指示された目・衣服の防護。使った布は密閉袋に入れ再使用しない | 清掃の手順、密閉した布の保管場所と処分方法 |
| けいれん発作時 | 口元を押さえる、抱きしめる | 近づかず周囲の物を片付け、発作後も素手で触らない | 発作時の連絡先と搬送の要否 |
すべての場面に共通して、手袋を外したあとは石けんと流水で手を洗います。
相模原市は、診断後数日以内にけいれん発作を起こすことがあると注意を促しています。
見た目に回復してもウイルスの排泄は数週間続くとされるため、防護を緩める時期は再検査の結果と獣医師の判断に従います。
参考:相模原市「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
参考:JIHS「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について」2026年3月9日版
3−2. 弱った保護猫・野良猫は素手で触らず動物病院や保健所に相談する
道端でぐったりした猫を見つけたときは、抱き上げる前に動物病院か保健所へ電話し、保護と搬送の方法を確認します。
順序は「電話で状況を伝える→指示された搬送方法と防護を用意する→指示どおりに保護する」です。
日本動物愛護協会の地域猫活動向け資料も、体調の悪そうな猫を受診させる際は事前に連絡し、猫にマダニを見つけても自分で除去せず動物病院に相談するよう示しています。
あわせて、無理に触ったり抱いたりして猫が暴れると、咬傷やひっかき傷の危険が高まると説明しています。
弱った猫は病気の種類が分からない段階で触れることになるため、相談先の指示を先に受ける手順が自分のけがを防ぎます。
参考:外の猫を世話するときに注意したい場面(公益財団法人日本動物愛護協会「地域猫Q&A」)
3−3. 咬傷や体液付着はすぐ相談し、最後の接触後14日間は家族の体調を観察する
SFTSが疑われる、または診断された猫に咬まれた、引っかかれた、血液や嘔吐物が皮膚や傷に付いた場合は、流水と石けんで洗います。
そして、その日のうちに医療機関へ電話します。
検査結果が出る前の段階でも相談の対象です。
目や口に入った場合は、石けんを使わず流水で十分に洗い流してから同じく連絡します。
相模原市の案内では、感染対策をせずに最後に犬猫に触れた日から14日程度、健康状態を確認します。
その間に症状が出なければ経過観察は終了です。
JIHSの資料も、飼い主へ14日間程度の検温と発熱時の受診を伝えるよう獣医師向けに示しています。
この14日間は防護なしで猫に触れた人の観察期間であり、猫が発症するかどうかの目安には流用できません。
観察対象は猫に触れた家族全員で、接触日と状況を記録し、判断に迷う点は医療機関か保健所に確認します。
参考:相模原市「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
3−4. 観察中に発熱などが出たら人の医療機関へ電話し接触状況を伝える
観察期間中に発熱、だるさ、吐き気、下痢などが出たら、市販薬で様子を見ずに、受診前に医療機関へ電話します。
伝える内容は次の3つです。
- 猫との最後の接触日
- 接触の内容(咬傷・体液付着・世話のみ)
- 猫の診断状況(検査中か、陽性確定か)
神奈川県のペット向け案内では、発症している犬や猫の体液に直接触れた場合に人が感染する可能性があると明記されています。
実際に猫に咬まれたことが原因で人が感染した事例が報告されていることも記されています。
猫の診断が確定していない段階でも「SFTS疑いの猫と接触した」と伝えることで、医療機関が診療方針を判断する材料になります。
参考:ペットとの接触後に体調異常が出た場合の対応(神奈川県「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」)
参考:人のSFTSの症状と受診に関する公的Q&A(厚生労働省)
4. 猫のSFTS予防は室内飼育と適切なマダニ対策から

猫のSFTS予防の柱は、マダニと接触する機会を減らすことです。
ただし、室内飼育か屋外か、同居に犬がいるか、家族が庭仕事をするかで必要な対策は変わります。
一律に予防薬の購入を勧めるのではなく、獣医師に伝えるべき情報を整理する形で考えます。
4−1. 室内飼育でも脱走歴や同居動物を獣医師に伝える
「普段は室内」と「屋外接触が一度もない」は、予防の判断上まったく別の情報です。
茨城県の公表資料には、2025年に屋内飼養の猫が一時的に屋外へ逃げ、帰宅時に耳へ多数のダニ付着が確認された例が示されています。
この猫は約2週間後に高熱や食欲低下、嘔吐などで受診しました。
治療を続けたものの3日後に亡くなり、検査でSFTS陽性と判明しました。
「室内飼いだから屋外接触歴を確認しなくてよい」という判断の盲点を示す経過です。
神奈川県も予防策として室内飼育とマダニ対策を挙げています。
ただし、室内飼育を続けるうえでも次の4点は獣医師に伝えておきます。
- 脱走歴の有無と直近の日付
- 同居する犬の散歩先(草むら・山・河川敷など)
- 家族の庭仕事・農作業・登山の頻度
- ベランダや庭への出入りの有無
参考:猫の室内飼育と飼育状況に応じた予防(神奈川県「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」)
参考:茨城県「動物の感染症」(屋内飼養の猫が脱走後に発症した例)
4−2. 猫用のマダニ予防薬を選び、感染の完全防止とは区別する
予防薬を使うときの注意点を、根拠となる資料とあわせて表に整理します。
製品名は根拠の確認に必要な範囲で示したものです。
記載内容は製品ごとに異なるため、使用する薬の添付文書を個別に確認します。
| 注意点 | 根拠資料の記載 | 飼い主が行うこと | 参照元 |
|---|---|---|---|
| 駆除効果と感染防止を分けて考える | 猫用外用薬「エフィプロ デュオ」は寄生したノミ・マダニを駆除するが、これらが媒介する病気の伝播を防げるかは検討されていない | 「投薬すればSFTSにならない」と考えず、予防中でも体調変化があれば受診する | 資料1 |
| 犬用薬を猫に流用しない | 犬用「フォートレオン」は猫への使用が禁止され、ピレスロイド系薬剤(殺虫成分の一種)の猫への誤投与で中毒や、まれに死亡が報告されている | 体重が近くても犬用薬を少量でも使わない | 資料2 |
| 同居動物の舐め取りを防ぐ | 外用のノミ・マダニ製品では、投与部位が乾くまで触れさせない、一定時間は他の動物との接触を控えるなど、製品ごとに注意が示されている | 同居犬に投薬した日は、猫と接触させるまでの時間を獣医師に確認する | 資料3 |
1つ目の注意点に関連して、2019年7月のIASRには、定期的にマダニ予防を実施していた猫の発症が原因不明として報告されています。
古い報告で、現在の各製品の効果を直接示すものではありません。
しかし、予防中でも食欲低下や嘔吐があれば相談するという行動の根拠になります。
参考(資料1):猫用マダニ駆除薬の効能と使用上の注意(農林水産省動物医薬品検査所 製品情報)
参考(資料2):猫への使用が禁止されている犬用薬の注意事項(農林水産省動物医薬品検査所 製品情報)
参考(資料3):多頭飼育での外用薬の舐め取り防止(米国食品医薬品局 FDA)
参考(資料3):外用薬の投与部位への接触に関する注意の例(米国FDA 製品情報)
参考:マダニ予防をしていた猫の発症報告(IASR 2019年7月号)
4−3. 猫に付いたマダニは無理に取らず動物病院へ相談する
毛の上を歩いているだけのマダニでも、皮膚に口を食い込ませて吸血中のマダニでも、素手で触らず、潰さないことが基本です。
大分県の案内では、無理に取るとマダニの口の部分が動物の体に残って化膿したり、マダニの体液が動物に流入したりすることがあると説明されています。
また、取り除いたマダニに人が咬まれると、SFTSに感染する可能性があるとも記されています。
動物病院なら専用の器具で除去でき、同時に体調の確認もできるため、見つけた時点で電話するのが安全です。
参考:大分県「犬や猫から人へ感染するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)について」
4−4. 庭仕事や草刈りの後は家族の衣類と体も確認する
人の衣類がマダニを室内に持ち込む経路は否定できません。
ただし、本記事で確認した資料では、室内飼育の猫が屋外に出る猫と同じ危険度だと示すデータは確認できません。
過剰に心配するより、帰宅後の手順を決めておく方が実用的です。
東京都健康安全研究センターの案内も参考に、草むらや藪に入ったあとは衣類を屋内に持ち込む前に払い、入浴時に体にマダニが付いていないか確認する流れを決めておきます。
庭仕事の服を猫が寝る場所に置かないだけでも、接触の機会は減らせます。
参考:屋外活動後のマダニ対策(東京都健康安全研究センター「マダニに注意」)
5. 猫のSFTSに関するよくある質問
猫の潜伏期間、健康な猫との接触、マダニ対策を行う時期という、猫に固有の3つの疑問に絞って答えます。
5−1. SFTSの潜伏期間は猫でどのくらいですか?
東京都獣医師会は、動物のSFTSの潜伏期間を「不明(約1週間程度)」と説明しています。
猫について確立した期間は示されていません。
「脱走から1週間たったから安全」と逆算しないよう注意します。
4−1の茨城県の事例では脱走の約2週間後に症状が出ており、目安より遅れて発症することもあります。
接触からの日数ではなく、食欲や元気の変化が出た時点で相談する基準で考えます。
参考:動物のSFTSの潜伏期間に関する説明(東京都獣医師会「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」)
5−2. 健康な猫との接触も避けたほうがよいですか?
発症していない猫との日常的なふれあいを一律に避ける必要はありません。
神奈川県は2026年4月20日更新のページで、健康な犬猫や屋内のみで飼育されている犬猫から人へ感染した事例は報告されていないと説明しています。
藤沢市のページも、感染・発症した動物の体液への直接接触や咬傷による感染とは区別して、同様の説明をしています。
ただし「報告がない」ことは、どんな接触でも安全という保証ではありません。
家庭での対応は次の3つに分けて考えます。
- 日常の衛生:口移しで餌を与えない、寝具を共有しない、触ったら手を洗う
- 猫の体調変化:食欲や元気が落ちたら接触を減らし、1章の目安で動物病院へ相談する
- 接触事故:咬傷・ひっかき傷・体液の付着は、猫が健康に見えても洗浄し、猫の受診状況とあわせて医療機関へ相談する(3−3参照)
参考:神奈川県「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」(2026年4月20日更新)
参考:藤沢市「マダニが媒介するペットのSFTS(重症熱性血小板減少症候群)について」
5−3. マダニ対策は夏だけで十分ですか?
夏だけでは不十分です。
JIHSの資料では、猫のSFTS発症例は春(3〜5月)に多い季節性が示されています。
ただし、それ以外の時期にも発生の報告があり、夏以外に感染の機会がないとは言えません。
予防薬を冬に中断するかどうかは、猫の外出状況や地域の気候を踏まえて獣医師に相談してから決めます。
マダニは野生動物に運ばれて住宅地の近くまで来るため、次章では家の周りの対策を扱います。
参考:犬猫のSFTS発生時期(JIHS「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について」2026年3月9日版)
参考:猫のSFTS発生の季節性(JIHS「国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について」)
6. マダニを運ぶ野生動物が家の周りにいるときの住環境対策

この章は4章の庭対策の延長です。
猫の体調は動物病院、人の体調は医療機関への相談が最優先で、住環境の整備はそのあとに考える項目になります。
野生動物の侵入を抑える対策がマダニの密度低下につながった研究はあります。
ただし、効果は動物種やマダニ種、敷地の規模や環境によって異なります。
また、本記事で確認した資料では、家庭の猫のSFTS感染を減らす効果を直接評価したデータは確認できませんでした。
参考:シカの排除によるマダニ密度低下に関する研究(PubMed)
参考:住宅敷地でのシカ防護柵とマダニに関する研究(Journal of Medical Entomology)
6−1. マダニはシカやイノシシ、ハクビシン・イタチなどの野生動物に運ばれる
マダニは自分では長い距離を移動できず、吸血する動物の体に付いて運ばれます。
福岡県の案内では、マダニはシカ・イノシシなどが生息する環境だけでなく、民家の裏山・裏庭・畑にも生息すると説明されています。
草刈りや農作業で刺される危険が高まるとも記されています。
野生動物の姿を見かけないことは、庭にマダニがいないことの確認にはなりません。
当協会は害獣被害の兆候の一つに「ノミやダニのような死骸がある」を挙げています。
ただし、これは屋根裏に出入りする動物が外から持ち込む寄生虫全般の目安です。
死骸だけでマダニかどうか、SFTSの危険があるかどうかは判断できません。
ハクビシンやイタチが家の周りにいる場合も、猫に付いたマダニがどの動物に由来するかを個別に証明するのは困難です。
そのため、猫の受診と環境対策は切り分けて進めます。
関連記事:イタチと猫の関係とは?強さの違いや共存リスク・飼い猫を守る対策を解説
関連記事:ハクビシンとは?生態・害獣被害・今すぐできる対策を専門協会が解説
参考:福岡県「マダニによる人獣共通感染症に注意しましょう」(2026年9月10日更新)
6−2. 野生動物を寄せない餌・藪・隠れ場所の管理
農林水産省の広報誌「aff」2022年1月号の特集では、収穫されずに放置された果実が野生鳥獣の餌になり、動物を人の生活圏に近づける要因になった事例が紹介されています。
家庭で行う管理と、専門家に相談する作業を分けると次のようになります。
- 餌の管理(家庭で行う):落ちた柿や梅、収穫しない果実、屋外に出した生ごみや猫の食べ残しを放置しない
- 藪の管理(家庭で行う):庭の境界や家の裏手の草を刈り、地面に日光が当たる状態にする
- 隠れ場所の片付け(家庭で行う):使っていない資材や廃材を片付ける
- 隙間の封鎖(相談してから行う):床下や軒下の隙間は、内部に動物がいないことを確認したうえで封鎖方法を専門家と相談する。中に動物がいる状態でふさぐと閉じ込めてしまう
屋根裏や壁から夜間にゴソゴソ・ガタガタと物音がする、庭や軒下にまとまったフンがある、悪臭がする、といった変化は侵入の目安として扱います。
自分で屋根裏に上がって追い出す、罠をかけるといった自力駆除は勧めません。
追い詰められた動物に咬まれる危険に加え、糞尿による木材の傷みなど見えない部分の被害や侵入経路を確認するには、専門的な調査が有用なためです。
関連記事:【イタチ対策!】イタチによる被害と対策について
関連記事:ハクビシンは天井の裏に住んでいる?駆除方法も徹底解説
参考:野生動物の餌になる放任果樹の事例(農林水産省「aff」2022年1月号)
6−3. 屋根裏や壁の気配は医療相談と分けて協会の相談窓口へ

- 対処方法
- 業者選び
- 害獣の特定

相談先を整理すると、猫の体調は動物病院、家族の体調やマダニに刺された疑いは医療機関、屋根裏や壁の気配・フン・悪臭といった住環境の不安は害獣の専門窓口、という分担になります。
当協会(一般社団法人日本有害鳥獣駆除・防除管理協会)では、害獣・害虫・害鳥に関する無料電話相談(0120-539-775、9:00〜18:00、平日・土日祝日対応、通話無料・相談無料・匿名可)を受け付けています。
被害の状況を伺ったうえで、地域と被害内容に合った業者を紹介します。
対応地域は関東・中部(一部地域)・近畿・中国・四国・九州の各都府県です。
電話相談と業者紹介は無料です。
ただし、現地調査や施工の費用の有無・金額は紹介先の業者ごとに異なるため、依頼前に確認してください。
費用は対策の内容(忌避剤などの簡易的な対策か、再発防止の封鎖まで含めた防除か)や建物の構造、足場の要否によって大きく変わります。
そのため、見積もりの内訳を確認したうえで判断します。
自治体の保健所や医療機関とは別の民間相談先であることをご理解のうえ、住環境の相談にお使いください。
関連記事:住環境の害獣・害虫について相談する(一般社団法人日本有害鳥獣駆除・防除管理協会)
7. まとめ 猫の異変は早めの受診と家族の感染対策につなげる

優先順位は「猫の受診」「接触後の家族の医療相談」「平時の予防」の順です。
今日からできる確認事項を並べます。
- 猫の食事量・嘔吐回数を記録する場所を決め、かかりつけ動物病院にSFTS疑いの受入れ可否と電話の手順を平時に聞いておく
- 使い捨て手袋とマスクを猫用品と同じ場所に常備する
- SFTSが疑われる猫に防護なしで触れた場合は、日付と状況を記録して医療機関か保健所に相談する
- 脱走歴・同居犬の散歩先・家族の庭仕事を次回の診察で獣医師に伝え、庭の落果・藪・屋根裏の物音も点検する
3は感染が疑われる猫に触れた場合に限った対応で、それ以外は平時の備えです。
猫の受診、家族の医療相談、住環境の整備は窓口が異なります。
そのため、それぞれの相談先に分けて動くことが、猫と家族の両方を守る近道になります。
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