前書き
世の中には、不幸なことに自宅が害獣被害に見舞われてしまう方がいらっしゃいます。
害獣被害に見舞われれば、建物の構造や住環境への被害はもちろん、自身で駆除を行う場合や業者へ依頼する場合も、相応の手間や金銭的負担が生じるます。
そういった事情もあり、ネット上には害獣対策について取り上げたコラム記事などが溢れています。
しかし、どれもこれも「持ち家」での被害を想定した内容ばかりになりがちです。
そこで今回は「賃貸」にお住まいの方に向けて、
賃貸での害獣被害対策にフォーカスを当てた情報をご紹介したいと思いますので、ぜひ最後までご覧下さい。
最近、自分の住んでるアパートでネズミがでたのよ!
フンだらけで気持ち悪いし、どうにかしてほしいわ…。
大家さんか管理会社に連絡したら、なんとかしてくれるかしら?
アパートなどの集合住宅では、異なる世帯が一つの物件を共有しており、所有者や管理者も別に存在するため、一戸建ての害獣被害よりも問題が複雑になります。
不要な出費を被ったり、トラブルに発展しないためにも正しい知識を身に着けることが重要です。
目次
ネズミってどんな生き物?
基本情報
ネズミに関する情報を、以下に簡潔にまとめました。
体長・体重
ネズミの体長と体重は、種類によって異なりますが、一般的には体長は約15から20センチメートル、体重は約100から200グラムとされています。
しかし、この数値は平均的なもので、特定の種類や個体ではこれらの範囲を超えることもあります。
歯
ネズミはげっ歯類に分類され、上下のあごにそれぞれ1本の切歯、上下合わせて4本の前歯を持っています。
また、ネズミの歯は一生伸び続けるという特徴があり、歯の長さを調整するために建物の柱や家具、電気配線などの固いものを齧(かじ)って削る習性を持っています。
尾
一般的にネズミの尾は長く、細く、鱗状の皮膚で覆われており、バランスを取るのに役立ちます。
また、しっぽの先端には多くの神経が存在し、触れることで物体の形状や質感、温度などの情報を感知することのできる、触覚器官としての役割も果たしています。
体毛
ネズミの体毛は基本的に短く、中には全く生えていない種も存在します。
体毛の色は様々ですが、赤褐色や灰色などが一般的です。
また、ネズミの体毛は敏感で、微細な振動や障害物を感知する能力があります。
耳とひげ
ネズミの聴覚は非常に優れており、ネズミ同士は超音波でコミュニケーションをとり、5万Hz以上の周波数も聞き取ることができます。
また、ネズミのヒゲは非常に敏感で、微細な振動や障害物を感知することができます。
補足
これらは一般的なネズミの特徴であり、種類によっては異なる特徴を持つこともあります。
例えば、クマネズミは尾が体長と同じくらい長くて、耳が大きく、一方でドブネズミは尾が体長より短くて、耳が小さいです。ハツカネズミは10cm以下と小型で、尾が短く、耳が大きいのが特徴です。
世界に1300種ほど存在しているネズミですが、日常生活の中で出くわす可能性があるのは、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミの3種類だけです。
まずは自分に被害をもたらしているネズミが、どういった種なのか把握すると望ましいでしょう!
詳しい生態
食性
ネズミは雑食性で、なんでも食べます。人間の食べるものはもちろん、ペットフードや家畜飼料、水分補給のために観葉植物の葉などを食べてしまうこともあります。
昆虫を捕らえて食べることもあるので、人家ではゴキブリが餌になる場合もあります。
生活様式
ネズミは基本的に夜行性の動物で、昼間のうちはあまり動き回りません。
もっとも活発になるのは、日没直後と明け方直前の2回です。そのため、ねずみの被害は夜間に発生することが多いでしょう。
繁殖
ネズミは多産で成長が速く、繁殖期も1年を通じてあるため、非常に速いスピードで数が増えていきます。
一度の出産で6-8匹生むことができ、わずか3-4週間程度で性成熟し子供が産めるようになる種も存在し、この繁殖力になぞらえて「ねずみ算」という有名な数学問題が作られました。
巣作り
ねずみは家の中に安全な場所を見つけ、集めてきた布や紙などの切れ端を材料にして巣作りを行います。
巣をつくる場所は種類によって異なりますが、どの種も人目に付かず、天敵が侵入しにくい場所に巣を作るという点で一致しています。
行動パターン
ねずみが見せる動きの特徴として、壁際・家具に沿うように部屋の隅から隅へと移動する、というものがあります。警戒心が非常に強いため、部屋の中央を横切るというような動き方は滅多に見せることがありません。
様々な種類
前述したネズミの特徴は一般的な特徴であり、種類によっては異なる特徴を持つこともあります。
例えば、クマネズミは屋根裏に入り込むことが多く、天井裏や建物の高層部を好むため、夜間にパタパタと歩き回る音が聞こえることがあります。
一方、ドブネズミは湿気を好むため、床下や水回りに近い場所に出現することが多いです。
ハツカネズミは近い家や倉庫や物置などに出現することが多いです。
これらの違いを理解することで、見た目からネズミの種類を特定し、さらにそこから行動パターンを推測することも可能です。
ネズミが引き起こす害獣被害とは
被害の具体例
食害
ネズミは雑食性で、家の中の食品を食べることがあります。ネズミに食べられた食材は衛生上の問題から廃棄しなければならないことがあります。
健康被害
ネズミはさまざまな菌やウイルスを保有しており、それらが人間に感染すると様々な病気を引き起こすことがあります。例えば、サルモネラ菌、レプトスピラ菌、ハンタウイルスなどがあります。これらの菌はネズミの体そのものから感染する場合もあれば、糞尿から感染することもあります。
精神的被害
ネズミは夜行性で、主に夜に活動します。そのため、深夜に天井裏や壁の奥からネズミがものをかじる音やバタバタと走る音が聞こえることがあります。これにより、睡眠障害やストレスが生じることがあります。
経済的被害
ネズミによる被害は経済的なものもあります。
例えば、ネズミによって家の中の電源ケーブルがかじられると、漏電や停電の可能性があり、また、電源ケーブルをかじって感電死したネズミの死骸やショートした火花が原因で火災が発生する危険も考えられます。
もちろん、建物への被害にはその修繕に伴う経済的負担がのしかかりますが、不幸なことにネズミなどの害獣が原因の火災は保険適用外になることが多いです。
一般的な対処法
対処法の具体例
忌避剤を使う
ネズミが嫌うニオイを発生させる忌避剤を使用することで、ネズミの侵入を防ぐことができます。
忌避剤を噴霧して、ネズミが逃げたくなる環境にすることが重要になります。
粘着シートを設置する
侵入口近くに粘着シートを設置することで、ネズミを捕獲し、また、新たな侵入を防ぐこともできます。
殺鼠剤を使う
毒薬を餌に混入して食べさせることで駆除する殺鼠剤も効果的です。
ただし、これらを使う際にはネズミ以外の動物に被害が及ばないよう注意が必要です。
巣を取り除く
ネズミの巣を見つけたらすぐに取り除き、新たな巣作りを防ぐことが重要です。
侵入経路を塞ぐ
ネズミが侵入できないように、家の通気口や配線穴をしっかりと閉じることが有効です。
また、定期的に点検を行い、穴や隙間がないかを確認することも重要です。
プロの業者に依頼する
上記で紹介した情報は自らの手でネズミの駆除を行うのに役に立ちますが、害獣駆除の手段のもう一つの大きな選択肢として専門業者への依頼が挙げられます。
駆除を専門の業者に依頼するメリットには、以下のポイントがあります。
- 迅速性: 専門業者は経験と専門知識を活かして、ネズミの駆除を素早く行うことができます。
- 視覚的ストレスの軽減: ネズミの駆除を専門業者に任せると、自分でネズミを見る必要がなくなります。これは、ネズミが苦手な人にとって大きな利点です。
- 再発防止: 専門業者はネズミの生態を理解しており、再発防止策も提供できます。これにより、ネズミの被害が再発する可能性が減ります。
- 美観の保持: 建築物の構造を熟知した専門業者が侵入口の封鎖施工を行うことで、門外漢が施工を行うのと比較して確実性と効果がより担保され、建物の美観を損なうことが少ないです。
- 安心感: 駆除業者の中には、一定期間内に害獣被害が再発した場合の対応を無料で行う「保障」をサービスに含めているところもあるので、再発を恐れることなく、安心して日常生活を送れるでしょう。
これらの利点を考慮すると、ネズミの駆除は専門業者に任せることをオススメします。
ただし、業者選びには注意が必要で、事前に現地調査を行い、見積もりを出す業者を選ぶこと、また、複数の業者から見積もりを取り、それぞれのサービスを比較することが重要です。
アパート(賃貸)ならではの問題
さて、ここからが本題です。
害獣被害に遭った家屋が持ち家である場合は、その家の所有者の責任で必要な対策をとる必要であることは明らかです(隣接する空き家で繁殖したネズミによる被害、建設業者の施工不良が原因で起こる被害などの特殊なケースは例外にあたります)
しかし、アパートをはじめとする賃貸では、建物の所有者はあくまで大家であり、また、管理を担っている中間業者も存在します。
はたして、この場合いったい誰が責任の主体であり、駆除に掛かる費用を負担する必要があるのでしょうか。
参考になるケースを例に挙げて考えていきましょう。
想定するケース
賃貸仲介と管理を手掛けるとある宅建業者が管理している居住用賃貸アパートの入居者が、物件の共用部分にネズミが出没する様子を発見しました。
入居者が貸主に許可を取ってから害獣駆除業者に調査・点検を依頼したところ、駆除業者曰く、アパートの前の道路を挟んで正面に位置していた古い空き家の取壊しにより、そこに棲みついていたネズミがアパートへ移り住んだ可能性が高いとのことでした。
また、駆除業者がアパートを調査したところ、ネズミの侵入ルートになり得るような箇所が確認できなかったため、各部屋の空調機のダクト穴などから入り込んだだけで、建物の構造そのものには問題は無かったとの結論が出ました。
その後、入居者は管理会社を通じて貸主にネズミの駆除と再発防止策を行うよう要求しましたが、貸主は自身に対応の義務は無いと主張して、害獣駆除は昆虫が発生した際と同様に入居者が各人自主的に行うべきとしました。
結論
基本的に、賃借人が入居した後にネズミが室内に侵入した場合は、貸主が駆除等を行う義務はなく、賃借人が駆除を希望する場合は、賃借人の責任で駆除を行う必要があります。
また、害獣の侵入により物件に被害が出る可能性が考えられる状況においては、その事実を貸主に通知する必要があります。
ただし、賃貸借契約の前(賃貸契約を結ぶ前)から既に建物の構造的欠陥・侵入経路、ネズミの巣や具体的な被害がある場合などは、貸主の責任で害獣駆除と再発防止策、修繕を行う必要があります。
根拠
原則として、賃借人が入居してからネズミが室内に侵入した場合であれば、貸主が駆除に伴う費用を支払う義務はないとされ、賃借人が駆除を必要とするのであれば、賃借人自身で駆除にかかる諸々の費用をの負担することになります。
ネズミだけでなく、蚊・ハエ、ゴキブリなどの虫類も同様に、こうした現象は貸主が管理すべき事柄の範疇を超えているため、必要な措置をとる義務が貸主にあるわけではないと判断されるのです。
ただし、シロアリ被害のように、安全な住環境(建物構造そのもの)に影響を与える被害が発生した場合は、貸主に修繕の責任が課せられます。
また、賃借人には入居している物件に対する「善管注意義務」があり、害獣の侵入によって物件へ損害が生じ次第、直ちに貸主に通知しなければなりません。
賃借人が害獣の繁殖を誘発したり、ネズミの侵入を放置することで建物に損傷が生じるなどした場合には、賃借人は貸主から賠償責任を追及されることもありえます。
ただし過失の程度によっては害獣被害が賃借人の過失であるとは限らないため、貸主との交渉を通して駆除にかかる費用の一部を、その物件の管理費で賄うなど、貸主と賃借人の共同負担とすることを了承してもらえる余地は十分にあるでしょう。
なお、賃借人の所有物にネズミによる被害が発生した場合、被害をもたらした当事者に損害賠償請求をすることは可能であります。
やっぱりケースバイケースで、誰に責任があるか一概には言えないみたいね。
ゴミの管理はちゃんとしてるから私が原因じゃないと思うけど、被害が深刻化して得することなんて無いし、大家さんに駆除を業者に依頼するようお願いしてみるわ。
論点
- 害獣被害が発生したのは入居前か
- 害獣被害の原因は何か
- 物件の構造に瑕疵はあるか
- 賃借人は善管注意義務を果たしたか
アパートで暮らす上で気を付けるべきこと
慎重な物件選び
物件を選ぶ際にネズミ被害を避けるためには、以下の点に留意することが重要です
建物の構造
ネズミは小さな穴や隙間から侵入できます。そのため、物件選びの際には、壁の隙間や穴、エアコンの導入部や室外機、換気扇などの状態を確認することが重要です。
周囲の環境
物件の周囲にゴミ置き場や古い建物がある場合、ネズミが発生しやすい環境となります。また、近くに飲食店が多い場所もネズミが出やすいとされています。
清潔さ
物件内が清潔に保たれているか確認しましょう。食べ物の残りやゴミが放置されていると、ネズミを引き寄せる可能性があります。
管理体制
物件の管理体制も重要です。管理が行き届いている物件では、ネズミの発生リスクが低くなります。
これらの点を考慮することで、ネズミ被害を未然に防ぐことが可能です。物件選びの際には、これらのポイントを念頭に置いて、安心して生活できる環境を選ぶことをおすすめします。
証拠の記録
前述の「根拠」の項目では、基本的に貸主・管理会社に害獣被害の責任が無いことと、その理由を説明しました。
しかし、すべての場合においてこの限りであるとは限らず、例えば賃借人が物件に入居する前からネズミが棲みついていると考えられるのであれば、民法第601条、同法第606条に基づき、貸主は駆除や侵入防止策・被害箇所の修繕を講じた上で、賃借人を入居させる義務があるとされています。
つまり、賃借人が入居した時点でネズミが棲みついていた場合は、その後発生した害獣被害は、貸主が上記の義務を果たさなかったために発生したものであると考えられるため、害獣駆除にかかる費用や所有物への被害に対する損害賠償を請求できるかもしれません。
したがって、民事訴訟にまで発展した場合などは、ネズミが棲みついたのが入居前、入居後のどちらなのか、という点が裁判の争点となる可能性が高いのです。
もし、実際にあなたが入居した時点でネズミの存在を確認できたのなら、ネズミの姿やフンをはじめとする残留物、侵入防止策の不備・修繕の済んでいない箇所を、念のために写真などで記録しておくべきでしょう。
集合住宅での害獣被害による損害は多大なものとなる可能性があるので、いわれのない過失を押し付けられないためにも、しっかりとした証拠を持っておくと安心です。
証拠を残すなんて考えた事も無かったわ…。
ネズミを直接見たのは最近のことだけど、入居した時からフンは落ちてたから、写真だけでも撮っておいた方が良かったわね。
迅速な対応
つぎに、自分自身に害獣被害の責任がある場合を想定してみましょう。
ネズミによる害獣被害が発生した時、共用部分に生ゴミを放置していた、自室がゴミ屋敷と化している…といった具合に、その原因が明らかにあなた自身にあることも十分考えられます。
そうなると、再三ご説明した通り、被害への対処よって生じた費用を負担し、さまざまな損害賠償を行う必要に迫られるかもしれません。
集合住宅は普通の戸建て住宅よりも資産価格が高いため、とりわけ被害が建築物の構造にまで及んでいる場合などは、大規模な修繕と、それに掛かる多額の費用を負担する必要が生じます。
さらに、あなたが原因で発生した害獣によって、他の入居者や近隣住民の住環境や家財にまで被害が及べば、その弁償と相応の慰謝料をあなた自身が請求される事になるでしょう。
そういった意味で、アパートをはじめとする集合住宅での害獣被害には、特段の注意が要求されます。
かりに、あなたの済んでいるアパートで害獣の存在を確認されたのなら、具体的な被害が発生する前に管理会社に連絡をとった上で、早急な対策を講じるのが賢明です。
自分自身が原因でないと思われる場合も、それが単なる思い込みで、後になってあなたの過失が認定される可能性もあるので、決して他人事だと考えないでください。
建設的な交渉
ここまで、想定されるケースを例に、貸主と賃借人のどちらに駆除費用を負担する責任があるかを解説してきました。
ところが、実のところ過失割合が10:0となるようなケースは稀で、あいまいな責任の所在を明確にするのに民事裁判の判断を要することは珍しくありません。
しかし、話が訴訟にまで発展するのは原告と被告双方にとって大きな負担になってしまうので、費用負担の割合を話し合いによって両者納得の上で決めることが、より望ましいと言えるでしょう。
当然、ここには交渉の余地が多分に残されています。
害獣被害に遭った賃借人に、関連する民法の正しい知識が無ければ、大家や管理会社に言われるまま全額負担して泣き寝入りしてしまう可能性もあります。
ただ、本コラムで必要な知識を身に着けたあなたは、その知識を交渉の場で駆使することで、上記のような最悪の事態を免れることが出来るでしょう。
貸主にとってみれば、顧客である賃借人との良好な関係を維持することのメリットは、駆除に伴う多少の経済的負担を補って余りあるものであると言えるので、交渉に応じてくれる確率は高いはずです。
終わりに…
本コラムは以上で終わりになります。
害獣の厄介さが広く認知された昨今も、賃貸における害獣被害のリスクは見落とされがちです。
不測の被害に遭ってしまった場合も、本コラムで学んだ正しい知識を駆使して、トラブルに巻き込まれないよう上手く対応していきましょう!
アパートは自分の所有物じゃないから他人事になりがちだけど、当事者意識を持たないとダメね…。
すぐにでも管理会社に連絡して、話し合いをしてみるわ!
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