台所の床を横切った1匹の虫を、駆除するべきか放っておいてよいのか。
迷いの土台になるのが「害虫」という言葉の中身です。
害虫とは、人の健康・生活・財産に実害を与える虫や、虫に準じる小動物の総称で、生き物の名前で決まる分類ではありません。
本記事は、害虫を衛生害虫・不快害虫・農業害虫・家屋害虫の4群に便宜上整理したうえで、目の前の虫を「放置してよいか、動くべきか」で仕分ける判断ガイドです。
判断に使う「実害・繁殖・緊急度」の3軸は公的な基準ではなく、家庭での初動判断のために当協会編集部が設けた目安です。
1. 害虫とは?人の健康・生活・財産に実害を与える虫や虫に準じる小動物の総称【簡単に定義】

害虫とは、人の健康や生活、農作物、建物や物品に害を与えるため、防除の対象とみなされる虫の総称です。
基準は名前ではなく実害にあるため、同じ虫でも畑で作物を食べていれば害虫、庭先で他の虫を食べていれば益虫という位置づけになります。
さいたま市は、ハチには生態系の均衡を保つ役割があるとして、生活に支障がなければ駆除せず見守る選択肢を案内しています。
「嫌な虫はすべて害虫だからすぐ駆除」という線引きは、不要な薬剤使用や、巣を刺激したことによる刺傷事故を招きかねません。
参考:さいたま市 ハチについて
1−1. 害虫は昆虫だけではない:ダンゴムシ・クモ・ダニも含まれる理由
害虫の定義に「昆虫であること」は含まれず、ダンゴムシ・クモ・ダニなど昆虫ではない小動物も対象です。
生物学の分類では、ダンゴムシはエビやカニに近い甲殻類、クモとダニはクモ綱に属します。
一方、日常の言葉としての「虫」は小さくて脚の多い生き物全般を指し、害虫対策も分類ではなく実害で対象を決めます。
ダニによる刺咬やアレルギー、ダンゴムシの大量侵入も、実害がある以上は害虫の問題として扱われます。
1−2. 「衛生害虫」に単一の法的定義はない:広義と狭義の違い
「衛生害虫」には法令をまたいだ単一の定義がなく、広義と狭義を分けて捉える必要があります。
広義は健康や衛生に関わる害虫全般を指し、保健所の相談窓口などで使われる意味です。
狭義は医薬品医療機器等法(薬機法:医薬品や殺虫剤の承認・表示を定める法律)の分野で、法令自体は「ねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物」の防除を目的とする製品を規定し、一般用殺虫剤の標準的な対象としてハエ・蚊・ゴキブリ・ノミ・シラミ・トコジラミ・イエダニ・屋内塵性ダニ類などが示される実務上の区分です(マダニは別途の評価・承認に関する取扱いがあります)。
感染症法に基づく駆除は感染症対策として区域を指定して行う制度であり、旧伝染病予防法の時代からゴキブリなど病原体を運ぶ虫への対処が中心で、家庭の虫を一律に駆除させる仕組みではありません。
家庭で押さえるべき点は、市販殺虫剤が効く相手は製品ごとに表示された「適用害虫」で決まるという一点です。
参考:薬機法上の衛生害虫の整理
参考:マダニの防除を標榜する殺虫剤の取扱いに係る質疑応答集(Q&A)
2. 害虫の分類と代表的な種類一覧【衛生害虫・不快害虫・農業害虫・家屋害虫】

害虫の分け方は目的によって複数あり、衣料害虫・文化財害虫といった区分も使われます。
業界団体では、衛生害虫と不快害虫などをまとめて「生活害虫」と呼ぶこともあります。
本記事では家庭生活との関係を理解しやすくするため、便宜上4分類で代表種・主な被害・発生場所を一覧にしました。
| 分類 | 代表種 | 主な被害 | 主な発生場所 |
|---|---|---|---|
| 衛生害虫 | 蚊・ゴキブリ・トコジラミ・イエダニ・マダニ | 刺咬・病原体の媒介や運搬・アレルギー | 寝室・台所・水回り・草地 |
| 不快害虫 | ダンゴムシ・ユスリカ・カメムシ・ヤスデ | 嫌悪感・臭い・大量侵入 | 玄関周り・窓・照明付近・落ち葉の下 |
| 農業害虫 | アブラムシ・果樹カメムシ類・クビアカツヤカミキリ | 作物や庭木の食害・落果・樹木の枯死 | 畑・家庭菜園・果樹・サクラやウメの庭木 |
| 家屋害虫 | シロアリ・ヒラタキクイムシ・ニュウハクシミ | 建材や木材の食害・紙や書籍の食害 | 床下・木製家具・書庫・段ボール内 |
2−1. 衛生害虫:蚊・ゴキブリ・トコジラミなど健康被害を与える虫
衛生害虫とは、刺咬・病原体の媒介や運搬・アレルゲン(アレルギーの原因物質)のいずれかで健康に被害を与える虫です。
蚊やトコジラミは「刺咬と吸血」、ゴキブリは「病原体の運搬とアレルゲン」、屋内のダニは「アレルゲン」が被害の中心になります。
蚊について厚生労働省は、日本脳炎以外の主な蚊媒介感染症は主に海外からの輸入感染症として確認されると説明しています。
トコジラミは感染症を媒介する報告はないものの、激しいかゆみで生活の質を落とし、東京都など一部の自治体では近年相談の増加が報告されています。
住まいの清潔さに関係なく旅行先からの持ち込みで被害に遭うため、旅行後にかゆみが続くなら寝具周りの黒い糞跡を確かめてください。
関連記事:トコジラミの噛み跡は「3個一直線」?刺された跡の見分け方や対処法を解説
参考:トコジラミの最近の傾向
参考:蚊媒介感染症の解説
2−2. 不快害虫:ダンゴムシ・ユスリカ・カメムシなど嫌悪感や大量発生が被害になる虫
不快害虫とは、主な被害が嫌悪感・臭い・大量発生による生活上の支障である虫です。
被害の中身が主観や数の多さに基づくため、1匹見かけただけで駆除が必須とは判定できません。
ダンゴムシは落ち葉を土に戻す分解者ですが、オカダンゴムシは若芽や苗を食害し、多数が屋内に入れば不快害虫として扱われます。
ユスリカは蚊に似ていても刺さず、カメムシは秋に越冬場所を探して窓際や洗濯物に集まり、つぶすと強い臭いを出す点が支障になります。
確認すべきは「何匹いるか」「どこから入るか」「植物や食品に被害があるか」の3点です。
参考:国立国会図書館レファレンス協同データベース ダンゴムシの位置づけ
2−3. 農業害虫:アブラムシ・果樹カメムシ・クビアカツヤカミキリなど作物や庭木を食害する虫
農業害虫とは、作物や果樹、庭木を食害して収量や品質、樹木の健康を損なう虫です。
畑だけでなく、ベランダの家庭菜園や庭のサクラ・ウメも対象になります。
家庭で確認できる兆候は、種類ごとに異なります。
- 果樹カメムシ類:果実表面のへこみ、奇形果、落果。
- アブラムシ:新芽の縮れ、葉のべたつき。
- クビアカツヤカミキリ(特定外来生物):サクラやウメの幹から出る、木くずと糞が混じった「フラス」。
室内では「臭い虫」として扱われるカメムシも、果樹の上では農業害虫であり、発見場所によって被害の評価が変わります。
農林水産省の発表によると、2026年8月31日時点で果樹カメムシ類の注意報は31府県から計43件に達しており、庭に果樹がある家庭も点検の対象です。
2−4. 家屋害虫:シロアリ・キクイムシ・ニュウハクシミなど建物や収蔵品を傷める虫
家屋害虫とは、建材・木材・紙類・繊維など、建物そのものや収蔵品を傷める虫です。
シロアリは床下の木材を内側から食べるため、床の沈みや羽アリの発生で初めて気づく例が多くあります。
東京文化財研究所の2025年11月4日の報道発表によると、外来のニュウハクシミの分布域は2022年の5都道県から2025年9月末時点で19都道府県まで拡大しました。
同研究所は1個体から1年後に約130個体、3年後には約2万個体に殖えると説明し、段ボール内で繁殖しやすく定着後の防除は難しいと案内しています。
本や書類を段ボールで長期保管している家庭は、紙の食害跡を確認してください。
参考:ニュウハクシミの分布拡大
3. 害虫と益虫・害獣の違い【比較表で整理】

害虫・益虫・害獣は、生き物の名前ではなく「人との関係」で区別する言葉です。
関係法令も一律ではなく、対象ごとに適用される法律が変わります。
| 区分 | 対象生物 | 実害の有無 | 関係法令 | 主な対処 |
|---|---|---|---|---|
| 害虫 | 昆虫・クモ・ダニ・ダンゴムシなどの小動物 | 健康・生活・財産への実害あり | 一律の法令なし。衛生害虫の防除剤は薬機法、農業害虫の検疫・発生予察・防除は植物防疫法、農薬の登録・使用は農薬取締法、指定された特定外来生物(ヒアリなど)は外来生物法 | 発生源の確認・薬剤や物理的防除・専門業者への依頼 |
| 益虫 | ミツバチ・ナナホシテントウ・多くのクモ類 | 実害なし、または受粉や捕食で利益 | 一律の法令なし | 原則そのまま。刺傷の危険があれば距離を取る |
| 害獣 | ネズミ・ハクビシン・アライグマなどの哺乳類 | 食害・糞尿・騒音・病原体 | 野生鳥獣は鳥獣保護管理法、アライグマは外来生物法、家ネズミ3種は鳥獣保護管理法の対象外 | 捕獲許可の要否を確認し、侵入経路の封鎖を伴う防除 |
3−1. 益虫とは?テントウムシ・ミツバチ・クモ・カメムシは「種類・場所・実害」で位置づけが変わる
益虫とは、受粉や害虫の捕食などで人に利益をもたらす虫です。
ただし「テントウムシは益虫」「クモは益虫」という種群単位の断定はできず、「種類・場所・実害」の3条件で位置づけが変わります。
農林水産省の花粉交配用昆虫の資料では、作物栽培における受粉の経済貢献額は6,686億円、うちセイヨウミツバチは約1,800億円と推計されています。
ミツバチは刺すこともある虫ですが、農業上は明確な有用生物であり、庭に来た1匹を駆除する理由はありません。
農研機構はナナホシテントウなどをアブラムシの天敵と位置づける一方、同じテントウムシ科のニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウはナス科植物の葉を食べる農業害虫です。
家庭菜園では「葉を食べているか、アブラムシを食べているか」を観察すれば見分けられます。
3−2. 害獣とは?ネズミが「害虫」と呼ばれる文脈と、法律・対処法の違い
害獣とは、人の生活や農作物に被害を与える哺乳類などの動物です。
ネズミは哺乳類ですが、厚生労働省の衛生動物に関する資料では蚊やゴキブリと並ぶ防除対象として扱われ、衛生上の文脈では害虫と併記されます。
法律面では、野生のネズミ類・モグラ類は原則として鳥獣保護管理法の対象ですが、ドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミの家ネズミ3種は同法の対象外で、通常の家庭での駆除に捕獲許可は要りません。
対照的に、ハクビシンなど同法の対象となる害獣は都道府県知事(権限移譲を受けた市町村長等の場合もあります)の捕獲許可なしに家庭が独自に箱わな等で捕まえることは原則できず、手続きの重さが異なります。
関連記事:ネズミは1匹いたら何匹いる?家から追い出す方法も解説
関連記事:ハクビシンとは?生態・害獣被害・今すぐできる対策を専門協会が解説
参考:衛生動物に関する動向資料
4. 目の前の虫は放置してよい?初動フローと緊急度で分ける判断早見表

放置か対処かは、「実害があるか」「屋内で繁殖しているか」「健康や安全上の緊急度が高いか」の3軸で分けると迷いが減ります。
次の早見表は、種類が確定できた場合に3軸をどう当てはめ、直後に何をするかの目安です。
外見の似た有毒種や外来種があるため、種類を確定できない場合は放置可否を断定せず、相談を優先してください。
表中の「地域の防除専門団体」は、有害生物の防除を扱う都道府県ごとの専門団体(ペストコントロール協会など)を指します。
| 虫の例(分類) | 実害 | 屋内繁殖の兆候 | 緊急度 | 推奨行動・相談先 |
|---|---|---|---|---|
| スズメバチ・アシナガバチの巣(衛生害虫) | 刺傷・アナフィラキシー(全身に急激に出る重いアレルギー反応) | 巣そのものが繁殖の場 | 高(スズメバチ・種類不明・閉鎖空間や地中や高所・生活動線上の巣) | 近づかず相談。自治体窓口・専門業者・地域の防除専門団体。生活に支障のない場所の巣は刺激せず見守る選択肢もある |
| ヒアリと疑われるアリ(特定外来生物) | 刺傷・生態系への影響 | 集団で行動 | 高 | 触らず通報。自治体・環境省の指定窓口 |
| セアカゴケグモに似たクモ(特定外来生物) | 咬傷 | 屋外の物陰に営巣 | 高 | 触らず自治体へ連絡 |
| ゴキブリ(衛生害虫) | 病原体の運搬・アレルゲン | 糞・卵鞘・幼虫 | 兆候なしなら低、ありなら中 | 単発なら経過観察。兆候があれば発生源確認。保健所・専門業者 |
| トコジラミ(衛生害虫) | 刺咬・強いかゆみ | 黒い糞跡・血痕・脱皮殻 | 中(1匹でも点検) | 寝具周りを点検。保健所・専門業者 |
| 羽アリ(家屋害虫) | 建材の食害 | 羽アリ・蟻道・床の沈み | 中 | 床下点検を検討。専門業者・地域の防除専門団体 |
| ダンゴムシ・ハエトリグモ(不快害虫・益虫) | 嫌悪感(ダンゴムシは苗の食害) | 通常は屋内で繁殖しない | 低 | 経過観察か屋外へ移動。再侵入が続けば管理会社へ |
4−1. 見慣れない虫を見つけた直後の初動フロー:離れる・安全なら撮る・危険なら探さず相談・低リスクなら発生源を探す
初動の手順は「離れる→安全なら記録する→危険が疑われるなら探さず相談する→危険性が低い場合のみ発生源を探す」の順です。
- 虫に触れず、安全な距離を確保します。ハチや集団のアリは刺激しないことが最優先です。
- 安全に撮影できる場合のみ写真を撮ります。真上と横からの2枚があると脚の数や体の形を判別しやすくなります。
- 危険種や巣・集団の可能性があれば、自分で探索せず相談先に連絡します。
- 危険性が低いと判断できた場合に限り、侵入経路や発生場所を確認して経過観察に入ります。
相談時に同定(虫の種類を特定すること)が早まる情報は、体長(mm単位)・色と模様・羽の有無・見た場所と数・時間帯・刺された跡の有無の6点です。
4−2. 今すぐ離れて相談:ハチの巣・ヒアリなど命に関わる虫
ヒアリが疑われる場合や、スズメバチの巣・種類が分からないハチの巣・閉鎖空間や地中や高所の巣・出入口や通学路など生活動線上の巣・刺傷アレルギー歴がある場合は、近づかず、触らず、すぐに自治体窓口や専門窓口へ連絡してください。
これらの条件で経過観察が選択肢に入らないのは、被害が「刺されるかどうか」ではなく「命に関わるかどうか」の水準になるからです。
一方、生活に支障のない場所のハチは刺激せず見守る選択肢があり、露出した小規模なアシナガバチの巣は、自治体が方法を案内し、本人が安全条件を満たす場合に限り自力対処を検討できます(6−1参照)。自治体ごとに無料除去や貸出制度の対象が異なるため、地域の最新案内を確認してください。
林野庁が人口動態統計を基に示す蜂刺されによる死亡者数は、2024年に18人でした。
この値はスズメバチ・ジガバチ・ミツバチとの接触を合算した数で、蜂の種類別の人数ではありません。
ヒアリは環境省が港湾などでの確認事例を発表し続けており、港湾周辺で赤茶色の小さなアリが集団でいる場合は、素手で触らず環境省のヒアリ相談窓口や自治体の環境部局へ通報してください。
軒下の大型の巣を家族が近づく前に撤去したいという相談は当協会にも寄せられており、巣の位置と大きさを離れた場所から伝えるだけで相談は始められます。
4−3. 発生源を確認して対処:ゴキブリ・トコジラミ・シロアリなど屋内で繁殖する虫
屋内繁殖の兆候が1つでもあれば、単発侵入として放置せず発生源を確認します。
- ゴキブリ:黒い点状の糞、卵鞘(らんしょう:卵が入った小豆のような殻)、幼虫の姿。
- トコジラミ:寝具や壁際の黒い糞跡、シーツの血痕、脱皮殻。
- シロアリ:春から初夏の羽アリ、床の沈み、柱をたたいたときの空洞音、土でできた蟻道(ぎどう:シロアリが通るトンネル)。
感染症発生動向調査の2024年届出では節足動物が媒介する感染症の中心は蚊やマダニによるもので、トコジラミやシロアリの緊急度は健康リスクより「繁殖の速さと被害の進行」で判断します。
シロアリの被害割合は調査対象の条件で大きく変わり、国土交通省補助事業の2013年報告書でも、保証期間内の住宅(B区分)は床下蟻害発生率約0.5%、保証切れ等の住宅(A区分)は約6.2%、過去6年以内に駆除履歴があり追跡対象となった特殊なC区分では84.3%と幅があるため、単一の割合で自宅の危険度は測れません(84.3%は被害住宅に偏った標本の値で、一般住宅全体の発生率ではありません)。
床の沈みに気づいてから調査すると柱まで食害が進んでいた相談例もあり、羽アリの段階で床下点検に進むほうが修復の範囲を抑えられます。
参考:国土交通省補助事業 シロアリ被害実態調査報告書(2013年)
4−4. 原則は経過観察:屋外から単発で入った不快害虫や無害な虫
無害な種類と確認でき、かつ1匹だけの場合は、経過観察か屋外への移動が原則です。
紙コップとはがきのような道具を使えば、単発で入ってきたクモやダンゴムシを素手で触れずに屋外へ出せます。
種類が分からない、腹部に赤い模様があるなど有毒種の特徴がある、同じ虫が複数または繰り返し見つかる、のいずれかに当たれば触らずに相談してください。
再侵入が続く場合は「たまたま入った」のではなく、隙間や湿気など家側に原因があると考え、次章の予防へ進みます。
5. 家に害虫が発生する原因と家庭でできる予防方法

害虫の発生は「入ってくる経路」と「居着く条件」の2段階で成り立ち、どちらか一方を断てば屋内での繁殖は大きく抑えられます。
本章では原因を分けて整理したうえで、今日できる予防と、市販殺虫剤を使う前の確認事項を順に見ていきます。
5−1. 害虫が家に入る原因:隙間・排水口・持ち込みの侵入経路と水・食べ物の定着要因
侵入経路は「隙間・設備・持ち込み・飛来」の4種類、定着要因は「食べ物・水分・温度・湿気・潜伏場所」の5つに分けられます。
- 侵入経路
- 網戸やサッシの隙間、玄関ドアの下、換気口といった開口部。排水口や配管の貫通部といった設備経路。段ボール・中古家具・旅行かばんによる持ち込み。屋外の草地や水たまりからの飛来や歩行。
- 定着要因
- 生ごみや食べこぼし、結露や水漏れによる水分、暖房で一年中暖かい環境、押し入れや家具裏の湿気、物が積まれた潜伏場所。
農林水産省の2025年地球温暖化影響調査では夏季高温に伴うカメムシなどの虫害が北日本の水稲作付地域の2〜3割で報告されるなど、気温も発生量に影響します。
ただし、蚊の発生量は自宅周りの水たまりや草地の有無に左右され、トコジラミやニュウハクシミの持ち込みは荷物や段ボールの流れで決まるため、家庭では「自宅の周りに水たまりや草地があるか」「荷物を屋内に持ち込む機会が多いか」を優先して点検してください。
参考:東京都の媒介蚊調査
5−2. 家庭でできる予防:侵入経路の封鎖・湿気管理・食品管理
予防の要点は、侵入経路を減らし、湿気と食べ物を断つことです。
- 網戸の破れやサッシの隙間を点検し、隙間テープや補修で埋める。
- 排水口には目皿やふたを付け、使わない排水口にも水を張っておく。
- 通販の段ボールは当日中に処分し、屋内に積み置きしない。
- 旅行後は荷物を玄関で開け、衣類はすぐ洗濯する。
- 生ごみはふた付き容器に入れ、食品は密閉容器で保管する。
- 押し入れや家具裏を週に1回は換気し、ベランダの受け皿の水も捨てる。
段ボールの処分は、ゴキブリだけでなくニュウハクシミの定着防止にも直結する、費用のかからない対策です。
5−3. 自力駆除の注意点:市販殺虫剤の使用前チェックと中止すべき条件
市販殺虫剤は「一律に危険」でも「火を使わなければ安全」でもなく、製品ごとの表示に沿って使い、条件が合わないときに中止する道具です。
日常語の「害虫」と製品の適用対象は一致せず、ゴキブリ用と表示された製品がトコジラミに効くとは限らないため、対象害虫の確認が最初の作業になります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 中止すべき条件 |
|---|---|---|
| 対象害虫・使用場所 | 適用害虫に目の前の虫が含まれるか、屋内用か屋外用か | 種類が不明、または表示にない場所で使おうとしている |
| 用法用量 | 部屋の広さに対する使用量と使用回数 | 「効かないから多めに」と増量したくなった |
| 退室・換気時間 | くん煙剤の退室時間と使用後の換気時間 | 時間を守れない同居者やペットがいる |
| 火気・ガス機器・電気機器・警報器 | 種火や給湯器の停止、電気製品の電源、火災警報器のカバーに関する表示 | 停止できない機器がある、警報器の位置が分からない |
| ペット・水槽・植物 | 屋外への移動や覆いの要否 | 移動できない生き物がいる |
| 複数製品の併用 | 表示に併用可否の記載があるか | 記載がなく、製造元に確認できていない |
製品評価技術基盤機構(NITE)は、可燃性ガスを含む殺虫スプレーが引火した事故や、くん煙殺虫剤の併用による事故を公表しています。
引火事例には電気製品の小さな火花が点火源になったものも含まれるため、可燃性噴射剤の製品では「コンロを使っていないから大丈夫」とは判断できません。
厚生労働省の家庭用品による健康被害の年次報告でも殺虫剤の吸い込みや皮膚付着の事例が扱われ、環境省の化学物質情報サイトも対象害虫と使用上の注意を守ることを前提に案内しています。
関連記事:害虫駆除にバルサンは効果があるの?バルサンの正しい使い方を解説!
参考:殺虫剤の引火事故事例
参考:くん煙殺虫剤の併用事故
6. 害虫駆除はどこに相談すべき?管理会社・自治体・専門協会・消費生活センターの使い分け

相談先は「虫の同定や駆除の相談」と「契約や料金のトラブル」で窓口が分かれます。
両者を混同すると、対応が遅れたり、本来相談できる窓口を見落としたりします。
6−1. 相談先の選び方:賃貸は管理会社、外来種は自治体、判断に迷えば専門協会
賃貸住宅は管理会社や大家、特定外来生物が疑われる場合は環境省や自治体が指定する窓口、一般の害虫は自治体公式サイトで保健所・生活衛生課・環境課などの担当範囲を確認したうえで、必要に応じて地域の防除専門団体へ相談するのが基本です。
| 状況 | 最初の相談先 | 補足 |
|---|---|---|
| 賃貸住宅で害虫が発生 | 管理会社・大家 | 建物の構造に原因がある場合、費用負担の整理が必要になるため先に連絡する |
| ヒアリ・セアカゴケグモ・クビアカツヤカミキリなど特定外来生物の疑い | 自治体・環境省の指定窓口 | 種や自治体ごとに窓口が異なるため、自治体サイトで確認する |
| ハチの巣 | 自治体窓口・専門業者・地域の防除専門団体 | 自治体によって対応範囲が異なる |
| 虫・ダニの同定や発生防止の相談 | 保健所など自治体の担当窓口 | 担当部署や対象害虫は自治体で異なり、相談者自身でできる対策の助言が中心で、駆除自体は行わない地域も多い |
| ゴキブリ・トコジラミ・シロアリ・ネズミなど一般の害虫や害獣 | 地域の防除専門団体(ペストコントロール協会)や当協会の相談窓口 | 同定と対処の助言、必要に応じて業者紹介 |
| 刺された・咬まれた後の体調不良 | 医療機関 | 虫の写真や実物があれば持参する |
自力駆除を一律に否定する自治体ばかりではありません。
世田谷区は、壁・塀・樹木などに露出したアシナガバチの巣については市販薬剤を使う方法を案内する一方、天井裏・壁内・戸袋・室外機・換気扇・木の洞・地中の巣は自力除去の対象外としています。
業者に依頼しても効果が続かない原因の1つに、事前調査や侵入経路の封鎖が作業範囲に含まれていない場合があるため、依頼前に作業範囲を確認してください。
関連記事:ネズミ駆除を業者に任せて「失敗した」「意味がない」と感じる人が多い理由を解説!
参考:世田谷区 ハチの巣の対処
6−2. 高額請求や強引な勧誘は消費生活センター(188)へ相談する
広告の料金と実際の請求が大きく異なる、契約を急かされるといった場合は、その場で支払わず、消費者ホットライン188へ相談してください。
国民生活センターは2024年4月24日の発表で、害虫・害獣駆除サービスの相談が増加傾向にあり、2023年度は前年度同期の約1.5倍に増え、10〜20歳代が契約当事者となる例が急増していると報告しています。
2025年3月4日の注意喚起では、格安料金の広告からゴキブリ駆除を依頼し、作業後に約50万円を請求された事例が紹介されました。
駆除費用は、忌避剤や毒餌による簡易的な対策か、再発防止を含めた防除かで大きく異なり、足場が必要な場合は足場代が加わるなど、種類・建物の広さ・被害状況・作業内容で変わるため、単一の相場では判断できません。
広告の基本料金だけで総額を判断せず、追加作業を含む見積書を作業前に確認してください。
6−3. 協会の無料相談で対応できる相談例:ハチ・シロアリ・ネズミ
一般社団法人日本有害鳥獣駆除・防除管理協会の無料電話相談(0120-539-775、9:00〜18:00、平日・土日祝日対応、通話無料・匿名可)では、害獣・害虫・害鳥について次のような案内ができます。
- ハチ:巣の場所・大きさ・ハチの色や大きさを聞き取り、近づかない距離の目安と、撤去に対応できる業者の紹介。
- シロアリ:羽アリの時期や床の沈みなど兆候の聞き取りと、床下点検から防蟻処理までを扱う業者の紹介。
- ネズミ:飲食店の厨房などで市販の罠や毒餌が効かない場合の、侵入経路の特定と封鎖を含む作業範囲の助言と業者の紹介。
2025年度は5,000件以上の相談を受け付けました(2026年3月時点の自社集計)。
相談内容の聞き取りだけで対処方法が定まる場合も多く、相談が必ず業者依頼につながるわけではありません。
相談可能な地域は関東・中部・近畿・中国・四国・九州の各府県で、中部地方の一部は対応地域が限られます。
7. 害虫とは?に関するよくある質問(FAQ)
本文で扱った判断基準を、検索されやすい問いの形で確認します。
7−1. 害虫とは何ですか?簡単に教えてください
害虫とは、人の健康や生活、農作物、建物・物品に害を与えるため、防除対象とみなされる虫の総称です。
実害は「刺す・かむ」「病原体を運ぶ」「食品・植物・建材を傷める」「大量発生で生活に支障が出る」のどれかに当たるかで確認します。
詳しくは1章で解説しています。
7−2. 益虫とは何ですか?
益虫は、受粉や他の虫の捕食で人の役に立っている虫で、同じ種でも場所と実害で位置づけが変わります。
ミツバチによる作物の受粉、ナナホシテントウによるアブラムシの捕食が代表例です。
テントウムシ科にも葉を食べる農業害虫がいる例は、3−1で確認してください。
7−3. ゴキブリは害虫ですか?
衛生害虫です。病原体の運搬とアレルゲンという実害があり、家庭で問題になる種類は屋内で繁殖します。
屋外から1匹だけ入ってきた単発侵入と、屋内で増えている状態は区別が必要です。
黒い点状の糞、卵鞘、幼虫のいずれかが見つかれば、殺虫剤より先に発生源と侵入経路の確認を優先してください。
7−4. 蚊は害虫ですか?
衛生害虫です。刺咬に加え、デング熱などの感染症を媒介する可能性があります。
厚生労働省の解説では、日本脳炎以外の主な蚊媒介感染症は主に海外からの輸入感染症として確認されており、国内の届出数と国内での感染数は別に読む必要があります。
参考:蚊媒介感染症の解説
7−5. ダンゴムシは害虫ですか?
通常は不快害虫です。屋内で単発なら経過観察、家庭菜園の若芽や苗を食害する場合のみ対処します。
人を刺したり病原体を運んだりする衛生上の被害とは区別して考えてください。
侵入が続く場合は、玄関周りの落ち葉や湿った受け皿など外側の発生源と隙間を改善してください。
7−6. クモは害虫ですか?
毒性が確認されないクモは他の虫を減らす側面があり、直ちに害虫とは判定しません。
農研機構の果樹園調査でも、クモ類は害虫を食べる土着天敵として扱われています。
一方、セアカゴケグモやハイイロゴケグモの雌は毒を持つため、環境省は素手で触らず、家庭用殺虫剤や物理的な方法で駆除し、発見時は自治体へ連絡するよう案内しています。
咬まれた場合は速やかに医療機関へ相談してください。
7−7. 何に刺されたか分からないのに、かまれ続けます。殺虫剤を使えばよいですか?
虫の正体が不明な状態で殺虫剤を使っても効果が出ないことがあり、先に発生源と対象を絞る必要があります。
日本OTC医薬品協会の殺虫剤Q&Aにも「ノミかダニか分からないが、かまれる」という同種の質問が掲載されています。
寝具の黒い糞跡ならトコジラミ、ペットの周りならノミ、といった場所の手がかりから候補を絞り、判断できなければ相談窓口で同定を受けてください。
7−8. ハチの巣を見つけたらどうすればいいですか?
巣には近づかず、揺らしたり騒いだりせず、安全な場所から所在地を記録して、建物の管理者や自治体窓口、専門業者へ連絡してください。
スズメバチ・種類不明・閉鎖空間や地中や高所・生活動線上の巣・刺傷アレルギー歴がある場合は自力対処を避け、生活に支障のない場所の巣は刺激せず見守る選択肢もあります。
世田谷区のように露出した小さなアシナガバチの巣の対処法を案内する自治体もあります。
蜂の種類や安全な作業条件を判断できない場合は、自力で除去しないでください。
8. まとめ|害虫は種類を確認したうえで「実害」と「繁殖の有無」で判断しよう
目の前の虫に対して、次に取るべき行動は3段階です。
- 安全な距離から写真と記録を取り、可能な範囲で種類を確認する。
- 種類が分かったら、「実害があるか」「糞・卵鞘・羽アリなど繁殖の兆候があるか」「刺傷や毒など健康・安全上の緊急度が高いか」を順に確かめる。
- 種類が確定できない、有毒種の特徴がある、複数見つかる、のいずれかに当たれば、自分で探索や駆除をせず相談先に連絡する。
今日できることとして、網戸の隙間・排水口のふた・積み置きの段ボールの3点を確認するだけでも、侵入と定着の条件は減らせます。
- 対処方法
- 業者選び
- 害獣の特定

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